この記事の監修ドクター
自然療法医 ヴェロニカ・スコッツ先生
ブラジルのリオグランデドスル・カトリック大学認定の自然療法専門医。アメリカ、カナダ、ブラジルの3カ国で認定された国際免許を取得しており、専門医として自然由来のサプリメントに関する知識と精密な現代科学のデータを組み合わせて診断や治療を行っています。自身のフィットネスインストラクターとしての16年間の経験を活かし、多くの患者が抱える肉体的な問題だけでなく、精神的な問題も含めて、自然由来のサプリメントを用いた新しい“先見的な予防医学”にも注力しています。
犬の白内障とは
白内障とは
白内障は、目の中の水晶体(レンズの役割をする部分)が白く濁り、視力が悪くなる病気で、進行すると失明することもあります。白く濁る原因は、水晶体に含まれるたんぱく質が変化してしまうためで、一度変化したたんぱく質を元の状態に戻すことはできません。このため、早期発見、早期治療がとても大切な病気です。
犬の白内障と人の白内障の違い
犬の白内障も人の白内障も水晶体が濁ることで視力が落ちてくるという点は同じです。では、犬の白内障と人の白内障では何が違うのでしょうか。それは、発症年齢です。
人は寿命が長いため、加齢による白内障が最も多く、80歳以上ではほぼ100%白内障になると言われています。
一方、犬では遺伝性(先天性)の白内障が多いと言われています。遺伝性の白内障は若い年齢で発症することが多いため、若い犬にも白内障は多く、中には生まれた時から白内障の犬もいます。
しかし、犬の場合には人間ほど寿命が長くないため、白内障を早期に発見できれば寿命まで視力を持たせることができます。
犬の白内障の主な症状
白内障は突然、視力を失うのではなく、徐々に見えにくくなり、やがて完全に見えなくなってしまう病気です。しかも、犬はにおいや音に対する感覚が鋭いため、多少、目が見えにくくなっても気にせずに生活できてしまいます。このため、飼い主が犬に以下のような症状が出ていないかよく観察し、白内障を早期発見することが大切です。
- 犬の黒目が白く見える、濁って見える
- 犬と目が合わない
- 犬が散歩に行きたがらない
- 犬が壁にくっつくように歩くようになった
- 犬がものにぶつかりやすくなった
- 犬が段差でつまずく
- 犬が以前はやっていたボール遊びなどをしなくなった
- 急に驚くことがある
犬の白内障の主な原因
白内障の原因は現在もはっきりとしたことは分かっていませんが、いくつかの可能性が示されています。また、様々な原因が複雑に絡み合って白内障になっていることが多いと考えられています。
最も多い原因は遺伝
犬の場合、犬種や家系(親犬が白内障)など遺伝的に白内障になりやすいことがあります。遺伝性の場合には、白内障の進行スピードが早く、5歳までに目が見えなくなってしまうことがほとんどです。
近年、増えている原因は加齢
犬の小型化、えさの改良などにより犬の寿命が延びているため、犬でも加齢による白内障が増えています。では、なぜ年を取ると白内障が増えるのでしょうか。例えば、子どもとお年寄りの皮膚を触り比べてみると、子どもの皮膚は柔らかいのに対し、お年寄りの皮膚は硬く感じます。これは、年を取るとたんぱく質が変化してしまうためです。このような変化は皮膚だけでなく、目にも起きているため、その変化が水晶体の濁り(白内障)として現れるのです。
その他の原因
糖尿病やホルモンの病気、アトピー性皮膚炎など持病がある犬は白内障になりやすいと考えられています。また、緑内障など他の目の病気や炎症、目に傷がついたことがきっかけで、白内障になることもあります。さらに、紫外線にあたり過ぎることも白内障になる原因の一つと考えられています。
白内障になりやすい犬
白内障になりやすい犬は、大きく分けると遺伝性と外傷性に分けられます。遺伝性は、生まれつき白内障になりやすい犬種がいるということを意味しています。また、外傷性は、目にけがをすると、それがきっかけで白内障になりやすいため、犬種の特性や性格によって白内障になりやすい犬がいることを意味します。
遺伝性(白内障になりやすい犬種) | 外傷性(目にケガをしやすい犬) |
トイプードル チワワ 柴犬 フレンチブルドッグ ヨークシャテリア シーズー ミニチュアシュナウザー マルチーズ ラブラドールレトリバー キャバリアキングチャールズスパニエル ボストンテリア アメリカンコッカースパニエル ビーグルなど |
<鼻ぺちゃ犬> フレンチブルドッグ シーズー パグ ペキニーズ ボストンテリアなど <性格> 草むらが好きな犬 けんかっ早い犬 <不注意な犬> 炎天下が好きな犬など |
外傷性の欄に書かれている『鼻ぺちゃ犬』とは、マズル(鼻と口の顔より出っ張った部分)が短い犬のことです。実は、このマズルの長さが目のケガのしやすさと大きく関係しています。なぜなら、鼻ぺちゃ犬以外の犬は、草などの物にぶつかるとき、目より先に口や鼻にぶつかるため、目に物があたる前にまぶたを閉じることができます。しかし、鼻ぺちゃ犬では、ものが目、口、鼻にほぼ同時にぶつかるため、目を閉じるまでの時間を稼ぐことができず、目のケガをしやすいため、白内障になりやすいと考えられます。
白内障になるとかかりやすい病気
白内障になると、以下のような他の目の病気にもかかりやすくなります。同時に複数の目の病気にかかることは、生活の質を低下させてしまいます。また、病気が悪化しやすくなるため、失明してしまったり、眼球が腐ってしまったりすることもあります。この点でも白内障の早期発見、早期治療は重要です。
病名 | どのような病気か | 症状 |
ぶどう膜炎(まくえん) | 目の中に炎症を起こす | 痛み、かゆみ |
緑内障(りょくないしょう) | 目の中の水分が多くなり、圧力(眼圧)が高くなることで目の神経を圧迫する | 吐く、痛み、失明 |
網膜剥離(もうまくはくり) | ものを見るための膜(神経のかたまり)がはがれる | 視界の一部が見えない、失明 |
水晶体脱臼(すいしょうたいだっきゅう) | 水晶体が本来の位置からずれる | 視力低下、失明 |
犬が白内障になるのを予防する方法
遺伝による白内障を防ぐことは難しいのですが、そのほかの原因を減らすことで白内障になるリスクを減らすことができます。そのポイントは、『酸化ストレス』と『目のケガ』を避けることです。
酸化ストレス対策
白内障の原因は特定されていませんが、酸化ストレスが原因の一つではないかと言われています。酸化ストレスとは、古くなった食べ物に含まれたり、呼吸の過程で体内に作られたりする『活性酸素』が細胞に悪さをすることです。
ドッグフードの買い方
呼吸による酸化ストレスを減らすことは難しいのですが、食べ物の酸化ストレスを減らすことはできます。それは、開封してから1か月以内に食べられる量のドッグフードを購入することです。なぜなら、ドッグフードには多くの脂肪分が含まれているため、開封直後から徐々に酸化してしまい、活性酸素が発生しやすいのです。このため、安くても犬の大きさに見合わない大袋に入ったドッグフードは買わないようにしましょう。
抗酸化栄養素の摂取
活性酸素を減らすことと併せて、活性酸素に対抗する栄養素(抗酸化栄養素)を食べさせることもお勧めです。ただし、大量に食べさせると特定の栄養素が偏ってしまい、中毒やアレルギーを起こすことがあるため注意が必要です。
抗酸化栄養素 | 含まれる食材 |
ビタミンC | じゃがいも、さつまいも、かんきつ類 |
ビタミンE | かぼちゃ |
ミネラル | レバー、卵黄、鰹節 |
フィトケミカル(βカロチン、リコピン) | かぼちゃ、トマト |
コエンザイムQ10 | 動物性食品(食品で十分量を補給するのは難しい) |
アスタキサンチン | 鮭、鯛 |
目のケガ対策
目のケガは生活を工夫することで防ぐことができます。犬同士のけんかを避けたり、ものにぶつかったりすることを防ぐことはもちろんですが、それ以外にも以下のような対策が考えられます。
紫外線を避ける
紫外線は細胞に傷をつけるため、白内障の原因になると考えられています。なるべく紫外線を浴びないようにするためには、散歩の時間を朝や夕にずらし、紫外線の多い日中の散歩を避けることがお勧めです。また、愛犬が嫌がらなければ、犬用のUVカットゴーグルをつける方法もあります。ただし、愛犬がゴーグルを嫌がる場合には、ゴーグルを取ろうとして目をひっかいてしまう危険性があるため、無理に着けさせることは逆効果です。
目の周りのケアをする
犬自身のまつ毛や体毛が目に入ることで、目に傷を作ってしまうことがあります。このため、特に目の周りの毛には注意を払い、長くなる前にカットしましょう。
また、目ヤニが付いたままになっているとかゆくなってしまい、犬自身が目をこすってしまうことがあります。目をこすると傷がついてしまいますので、犬が目をこする前に拭きとってあげましょう。
草むらを歩かせない
犬の中には、背丈の高い草の中を好んで歩く犬がいます。この時、犬は顔から草むらに突っ込んでいくため、目を傷つけやすくなります。このため、できるだけ草むらを歩かせないようにしましょう。
犬の白内障の治療方法
犬の白内障の治療方法は、白内障の進み具合によって変わります。
進行度合 | 状態 | 目的 | 方法 |
早期 | 生活に支障がない程度の視力が残っている | 白内障の進行を遅らせる | 目薬、サプリメント |
中期 | 視力に異常があり、生活に支障が出ている | 視力を取り戻す | 手術 |
末期 | 水晶体が溶けている | 眼球の維持、合併症の予防 | 白内障自体の治療は難しい |
点眼やサプリメントの内服では、白内障を治す(変化してしまった水晶体内のたんぱく質を元に戻す)ことはできませんが、何もしないと進んでしまう白内障の進行スピードを遅らせることができます。このため、早期に白内障を発見できた場合には有効な治療方法です。特に犬では、早期に発見できた場合には点眼やサプリメントの内服で寿命まで視力を維持できる可能性もあるため、早期発見、早期治療がとても重要です。
犬の白内障に対して行われる手術
手術の予備知識
生活に支障が出るほど愛犬の白内障が進んでしまった場合には、視力を回復させるための手術が必要です。現在行われている犬の白内障の手術は、人間の白内障の手術とほとんど同じ内容です。ただし、手術を行うことができる動物病院は限られていますので、まずは、お近くの動物病院を受診し、手術の適応になるかどうかを獣医師に判断してもらいます。そして、手術の適応になると判断された場合には、手術が可能な動物病院を紹介してもらうというのが一般的な流れです。
- 麻酔: 全身麻酔で行う
- 時間: 手術時間:約30分。ただし、手術直前の診察、手術前の準備、手術後に麻酔から覚めるまでの時間など、手術以外にも2~3時間はかかる
- 入院: 1週間~10日
- 費用: 動物病院によるが、片目あたり20~25万円
- 成功率: 90%以上(白内障の状態による)
手術の方法
- 目の表面にある角膜に穴を開け、超音波が出る器具を挿入して水晶体を削りながら吸い取ります。
- 水晶体があった部分をよく洗浄し、人工レンズを入れます。
- 人工レンズを広げ、角膜を縫います。
なお、人工レンズはピント調節をすることができません。これは、目から一定の距離のものにしかピントが合わないことを意味しています。このため、人工レンズに犬が慣れるまでは、ものにぶつかったり怯えたりする可能性があります。
手術後の注意点
- 処方された目薬の用法・容量を守って、毎日点眼することが最も重要です。
- 手術後の目を犬がこすってしまわないよう、エリザベスカラーの装着が必要です。多くの病院では、エリザベスカラーの貸し出しを行っています。
- 人工レンズを支えている目の細胞が増えて濁ってしまう(後発白内障)ことがあるため、定期健診を継続することが必要です。
- 散歩はエリザベスカラーを付けたまま草むらを避けて歩かせます。
- 食事は通常のもので構いません。
手術が行えない場合
- 症状が進み、水晶体が溶けだしているとき。
- 病気や高齢で全身麻酔に耐えられないとき。
- 糖尿病やホルモンの病気がうまくコントロールできていないとき。
- 術後の注意点が守れないと予想されるとき。
- 飼い主の同意が得られないとき。
白内障の犬との過ごし方
愛犬が白内障になってしまったら、どのように過ごせばよいのでしょうか。白内障の完治を目指すのであれば手術がお勧めですが、様々な事情で手術をしない場合には、少しでも愛犬が穏やかに過ごせるよう生活を工夫しましょう。
声かけやスキンシップを頻繁にする。
目が見えないと恐怖を感じ、吠えたり、かんだりすることがあるため、声かけやスキンシップで安心させてあげましょう。
無理に散歩しない
散歩を嫌がる場合には無理に連れて行く必要はありません。また、目が見えなくなっているのに散歩に行きたがる場合には、抱っこして散歩をするか、犬用カートに乗せて散歩しましょう。
室内での生活を工夫する
室内犬の場合には、目が見えなくても愛犬が困らないようにしましょう。例えば、家具の配置を変えない、家具にクッション材を巻いて当たっても痛くないようにするなどの工夫ができます。
音に配慮する
目が見えなくなると、音やにおいから情報を得ようとします。このため、特に物音には敏感になることがあります。愛犬を驚かせないよう、音に配慮した生活をしましょう。
まとめ
白内障は、目の中の水晶体が白く濁り、視力が悪くなる病気です。愛犬の目が白く濁っていたり、ものにぶつかりやすくなったりした場合には白内障を疑う必要があります。
白内障は、早期に発見すれば点眼で病気の進行を止められます。特に犬では、早期に点眼を始めることができれば、手術をすることなく寿命まで視力を維持することが可能です。
しかし、白内障の発見が遅れて目が見えなくなってしまった場合には手術が必要となり、さらに白内障が進んでしまうと目の一部が溶けだし、手術もできなくなってしまいます。そうなると、治療することはできません。
白内障の治療は、早期発見、早期治療がとても重要です。愛犬の目や行動をよく観察し、愛犬が視力を失う前に点眼で対応しましょう。